就活生が企業研究で見るべき5つの財務指標

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    企業研究というと説明会に参加したり、ホームページを眺めたり、業界本を読んだりしている人が多いようですが、「会社の業績」はちゃんとチェックしているでしょうか?

    会社の業績をしっかりと分析すれば、利益はちゃんと出ているのか、借金がどれぐらいあるのか、調達してきた資金をどれぐらい効率よく運用しているのか、といった「会社の本当の実力」が見えてきます。

    財務諸表を見れば会社の本当の姿が見えてくる

    今回は、不動産業界の大手3社(三井不動産、三菱地所、住友不動産)を例にして、企業の業績を見るときの5つのポイントについて解説します。

    上場している会社は3ヶ月ごとに業績を発表していますが、これまで会社の財務情報なんて見たことがないという人がほとんどじゃないでしょうか?

    企業が毎四半期公表している決算短信や有価証券報告書では企業業績が詳細に開示されていますが、見方を知らないと何が書かれているのか意味不明だと思います。

    そこで、必ずチェックしたほうがいい財務指標を5つだけ、プレゼンテーションにまとめました。最低でもこの5つの指標さえチェックしておけば、企業の本当の姿が見えてきます。


    「就活生が企業研究で見るべき5つの財務指標」へのリンク

    プレゼンテーションの内容を以下に文章でもまとめました。内容も最新のデータにアップデートしています(2016年12月現在)。

     

    財務分析の必要性と財務情報のダウンロード方法

    なぜ財務分析をする必要がある?

    企業の真の姿を知るためには、財務情報のチェックは必須だと考えています。なぜならば、財務分析をすることで企業の収益性や経営の効率、力を入れている事業、従業員の稼ぐ力などを知ることができるからです。

    人事の話はどうしても「会社の良い面」にばかり光が当てられますし、内容が定性的なのでなかなか企業間の比較ができません。しかし財務分析を行えば、企業ごとの特徴や違いを数字で客観的に知ることができます。

    例えば不動産会社を財務分析して比較することで、会社によって力を入れている事業や稼ぎ方がまったく違うことが見えてきます(詳細は後ほど解説)。

    他にも以下のようなことを財務諸表を読むことで定量的に知ることができます。

    • 企業が各事業でどれぐらいの利益を稼いでいるのか?
    • 各社の収益性にはどれぐらいの差があるのか?
    • 借金をどれぐらいあって、倒産リスクはどの程度か?
    • 従業員はどれぐらい給料をもらっているのか?

     

    人事の話に惑わされずに「企業の真の姿」を知るためには、財務情報のチェックは欠かせません。

     

    不動産大手3社の財務分析

    今回は三井不動産を例に財務分析のポイントについて紹介します。

    三井不動産の概要

    三井不動産は不動産業界で売上高、総資産共に日本1位のリーディングカンパニーです。

    東京都を中心に収益性の高い不動産資産を多数保有しており、代表的なオフィスビルは東京ミッドタウンや日本橋三井タワー、グラントウキョウノースタワー等があります。商業施設ではららぽーと、三井アウトレットパーク、COREDOなどが有名です。

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    三井不動産との比較として三菱地所と住友不動産についても財務分析をしました。

    三菱地所と住友不動産の概要

    三菱地所といえば丸の内です。三菱地所は丸の内に多数の不動産を保有しているため、事業基盤が安定しています。営業利益の大部分を丸の内を中心としたビル事業から稼いでいる他、海外事業からも利益が出ているのが特徴的です。

    住友不動産の売上高・総資産は国内3番手ですが、営業利益率は大手デベロッパーの中で最も高く、営業利益の絶対額は国内2位です。オフィスビルやマンションの賃貸を行う不動産賃貸事業とマンションや戸建て住宅を販売する不動産販売事業で利益の大半を稼いでいますが、どちらの事業も値引きに頼らない強い営業力により高い利益率となっています。

     

    財務情報のダウンロード方法

    上場している企業は決算短信や有価証券報告書を通じて毎四半期の業績を公表しています。

    企業の決算情報は会社ホームページの「投資家向け情報」の中にある「IRライブラリ」というコーナーからダウンロードできます。また、有価証券報告書はEDINETというサイトからもダウンロードすることができます。

    不動産大手3社の財務情報は以下のページからダウンロードすることができます。

     

    ※決算短信と有価証券報告書の違いについて
    決算短信は業績の速報版としての位置づけなので、情報量は確定版である有価証券報告書の方が多いです。就活生が財務分析をするときは直近の有価証券報告書(年間)を使用します。

    決算短信や有価証券報告書の他にも、決算説明会や個人投資家向け説明会の資料、アニュアルレポート、経営計画の資料など、企業研究に役立つ資料がたくさん掲載されています。今回のテーマは財務分析なので詳細は触れませんが、企業研究の参考になるので投資家向けの情報は必ずチェックしておきましょう。

     

    財務分析の基礎

    財務三票は何を意味している?

    財務諸表は主に貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書の3種類で構成されています。これらは「財務三表」と呼ばれているもので、財務三表が読めると企業のお金の流れが分かります。

    財務三表にはそれぞれ以下のような役割があります。

    • 貸借対照表:会社が資金をどのように集めてきて、何に使っているのかを表すもの
    • 損益計算書:特定の期間における企業の売上・利益を計算するもの
    • キャッシュフロー計算書:特定の期間における企業のお金の流れを表すもの

     

    今回はこのうち損益計算書と貸借対照表を使って財務分析をしてみます。

     

    損益計算書と貸借対照表とは?

    損益計算書を見ると「企業が1年間でどれぐらい稼いだか」を知ることができます。具体的には売上高や営業利益、純利益などです。財務三票の中では一番理解しやすいものだと思います。

    一方で貸借対照表は、会社が資金をどのように集めてきて、何に使っているのかを表すものです。貸借対照表の右側は「どこからお金を集めてきたか」が記載されており、短期借入金、社債、株主資本などで構成されています。貸借対照表の左側は「何にお金を投資しているのか」が記載されており、棚卸資産、現金及び預金、有価証券、固定資産などで構成されています。

     

    財務情報は必ず比較をすべし!

    財務情報は1社の情報を眺めているだけではあまり意味がありません。

    「同業他社との比較」と「過去との比較(時系列比較)」を行い、その数字の背景にある要因を考えることに意味があります。

    同業他社比較では、同じ業界に属している他社の財務指標と比較をします。例えば収益性の指標がライバル企業と比べて高いのか低いのかといったものです。

    ここで数字の優劣だけを比較しただけで終わってしまうと、あまり意味はありません。なぜそのような結果になっているか(例えば、なぜA社の収益性はB社よりも高いのか?)、数字の背景にある会社の強みと弱みを考えることで、企業の本当の実力が見えてきます。

    時系列比較では、過去から現在までの財務指標の変化を見ます。

    例えば売上高や営業利益が増加傾向にあるのか減少傾向にあるのかをチェックして、その会社が成長ステージ、衰退ステージ、あるいは安定期のどこにいるのかを考えます。衰退ステージにある企業に入るのは、給料カットやリストラなどのリスクも伴うので注意してください。

    また、利益率が安定して高い企業は「他社にはない競争優位性」を持っている実力のある企業である可能性が高いです。

     

    財務分析は以下の5つの財務指標を見ておけばOK

    いろいろ難しいことも書きましたが、基本的には次の5つの財務指標を見ておけばOKです。

    就活生が見るべき会社の5つの財務指標
    • 収益性指標:営業利益率とROE
    • 安全性指標:ネットD/Eレシオ
    • 効率性指標:総資産回転率
    • 従業員の情報:平均年齢、平均給与など
    • セグメント情報:事業ごとの収益性の比較

    それぞれの指標の意味や計算方法はこれから詳しく説明しますが、これら5つの指標を同業他社や過去とのレベルと比較するのが財務分析の基本です。

     

    就活生が見るべき5つの財務指標

    1.収益性指標:営業利益率とROE

    収益性指標の定義
    • 営業利益率=営業利益÷売上高
    • ROE=当期純利益÷自己資本
      ※自己資本=株主資本+その他の包括利益累計額=純資産-新株予約権-少数株主持分

    営業利益率もROEも収益性の高さを表す指標です。

    営業利益率は最も一般的な収益性を表す指標です。就活生が企業分析をするときは主に営業利益率を収益性の指標として見ておけば十分でしょう。

    ROEは株主の持ち分である自己資本に対してどれだけのリターンが生み出されているかを示す指標です。ROEは収益性だけでなく企業の経営効率や財務体質にも関係してきます。

    ■不動産大手3社の収益性指標(2016年3月期、クリックで拡大)
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    不動産大手3社の収益性の比較

    営業利益率は「住友不動産>三菱地所>三井不動産」となりました。

    住友不動産は営業が強いことで有名な会社です。値引きをしないで売る販売戦略(安売りをせずに時間をかけてマンションを販売する)により大手不動産会社の中で最も高い収益性を実現しています。

    三菱地所も丸の内という強固な事業基盤を持っているので、三井不動産に比べると収益性が高いです。また、三菱地所は他社よりも早い時期から海外展開をしているので、海外事業もすでに利益貢献をしています。

     

    2.安全性指標:ネットD/Eレシオ

    安全性指標の定義
    • ネットD/Eレシオ=純有利子負債÷自己資本
      ※純有利子負債=総有利子負債-現金及び預金-有価証券

    総有利子負債は企業が将来返さなくてはいけない借金の合計です。銀行から借りている借入金やこれまでに発行した社債などが含まれています。

    一方で企業は現金やすぐに現金化でいる有価証券も持っています。これはすぐに借金返済に使うこともできるので、総有利子負債の金額から現金と現金同等物を引いた純有利子負債は「企業の実質的な借金」を表します。

    純有利子負債を自己資本で割ったネットD/Eレシオは、企業の自己資本(企業の総資産のうち株主に帰属する部分)に対して借金がどれぐらいあるかを表している財務指標です。言い換えると、返済義務のある有利子負債が返済義務のない自己資本でどれぐらいカバーできているかを表す指標とも言えます。

    会社の財務の健全性を表す指標であり、この値が高すぎると借金の利息の支払いに追われて財務が不安定になるリスクがあります。

    ■不動産大手3社の安全性指標(2016年3月期、クリックで拡大)
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    不動産大手3社の安全性の比較

    ネットD/Eレシオは「三井不動産≓三菱地所<住友不動産」となりました。

    住友不動産の3.35という値は他の不動産会社や他の業界と比較してもかなり高いので、財務の安全性には注意が必要です。

    しかしこれには理由があって、住友不動産は値引きをせずに時間をかけて不動産を販売するため、在庫を他の不動産会社よりも多く抱える傾向があります。たくさん在庫を抱えるためには資金が必要です。そのために有利子負債の金額が多くなっているんです。

    三井不動産と三菱地所のネットD/Eレシオは十分に安全と言えるレベルです。

     

    3.効率性指標:総資産回転率

    効率性指標の定義
    • 総資産回転率=売上高÷総資産
      保有している資産をどれだけ効率よく売上につなげているかを表す指標

    企業が調達してきたお金(貸借対照表の右側)、あるいは企業が投資した資産(貸借対照表の左側)の合計が総資産です。

    売上高を総資産で割った総資産回転率は、企業が事業に投資した資産をどれだけ有効に活用しているかを示す指標です。

    総資産回転率が高い会社は、少ない元手で多くの売上を上げていることを表します。逆に総資産回転率が低い企業は、遊休資産などの無駄な資産が多い可能性があります。

    また、総資産回転率の応用編として棚卸資産回転率(売上高÷棚卸資産)や有形固定資産回転率(売上高÷有形固定資産)も参考になります。

    棚卸資産回転率は在庫(例えば販売用不動産など)が効率的に売上高につながっているかどうか、有形固定資産回転率は有形固定資産(例えば工場や生産設備)が効率的に活用されてるかどうかを示す指標です。

    ■不動産大手3社の効率性指標(2016年3月期、クリックで拡大)
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    不動産大手3社の安全性の比較

    総資産回転率は「三井不動産>三菱地所>住友不動産」となりました。

    先ほども説明したとおり、住友不動産は在庫を大量に抱えるビジネスモデルなので、どうしても総資産回転率は同業他社と比較しても低くなります。

    効率性指標は三井不動産が最も高く、調達した資金を効率よく経営に回していることが分かります。

    不動産会社の場合、棚卸資産回転率が極端に低いと、売れ残りの不動産や遊休資産等を大量に抱えている危険性があります。

     

    4.従業員の情報:平均年齢、平均給与など

    有価証券報告書には、親会社の従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与が記載されています。

    あくまでも「平均」であり、一般職の割合が高い会社は平均給与も低くなりますが、従業員の給与水準を知るための良い参考にはなります。

    また、連結の従業員数も掲載されているので、売上高や営業利益の金額を従業員数で割ると、従業員1人当たりが稼いでいる金額(売上高と利益)が分かります。

    ■不動産大手3社の従業員情報(2016年3月期、クリックで拡大)
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    ■不動産大手3社の従業員一人当たりデータ(2016年3月期、クリックで拡大)
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    不動産大手3社の従業員情報の比較
    • 住友不動産の給与が極端に安いが、これは三井不動産や三菱地所が子会社に任せているような業務でも住友不動産は親会社で行っているのが原因。実際はこんなに給料の差はない。
    • 住友不動産の勤続年数の短さには注意が必要。
    • 三井不動産、三菱地所は共に他業界と比較しても高水準の給与。
    • 三井不動産の一人当たり営業利益は大手3社の中で最も低い水準。
    • 三菱地所は丸の内に高収益な資産を多数抱えており、従業員一人当たりが稼ぐ金額は最も高い。

     

    5.セグメント情報:事業ごとの収益性の比較

    決算短信には企業の事業セグメント別の売上高、営業利益、資産、減価償却費、設備投資額、研究開発費、従業員数が掲載されています。

    セグメント別の売上高や営業利益を見れば企業の稼ぎ頭になっている事業が分かりますし、設備投資や研究開発費を見れば今企業が力を入れて伸ばそうとしてる事業が分かります。

    また、事業別のさらに細かい情報は決算説明会資料などにも掲載されています。

    ■三井不動産のセグメント情報(2016年3月期、クリックで拡大)
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    三井不動産のセグメント情報から分かること
    • 売上高・利益ともにオフィスビルや商業施設等の賃貸を行っている賃貸事業が1番の稼ぎ頭
    • 賃貸事業の売上高はオフィスビルが57%、商業施設が40%を占めている。オフィスビルの売上高は都心5区だけで78%を占めている。
    • 商業施設の売上高はららぽーとが50%、三井アウトレットパークが30%を占めている
    • マネジメントはオフィスビル、商業施設、住宅などの運営や駐車場事業(リパーク)行う「プロパティマネジメント」と、個人向け仲介(三井のリハウス)やJ-REITなどから受託する資産管理を行う「仲介・アセットマネジメント」に分かれる
    • マネジメントはストックビジネスなので収益は安定している
    • 分譲事業の売上高は個人向け住宅分譲が75%、投資家向け分譲が25%を占めている
    • 分譲事業は賃料で稼ぐストックビジネスではなく販売で稼ぐビジネスのため、利益率が賃貸やマネジメントに比べると低い

     

    不動産3社の収益性・安全性・効率性のまとめ

    不動産3社の財務分析の結果をまとめると以下のようになりました。

    ■不動産大手3社の財務分析結果(2016年3月期、クリックで拡大)
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    不動産大手3社の財務分析の結果まとめ
    • 利益率が最も高いのは住友不動産です。これは値引きをしない販売戦略とそれを可能にする強い営業力が要因です。
    • 従業員一人当たりの売上高が最も大きいのは三菱地所でした。これは丸の内に安定して高収益を稼ぐビルをたくさん所有しており、利益率の高い賃貸事業の構成比が高いのが背景です。
    • 売上・資産の規模では日本1位の三井不動産ですが、収益性では三菱地所と住友不動産に劣ります。これは利益率の高い賃貸事業の構成比が相対的に低いことが理由です。

     

    就活生が企業研究で見るべき5つの財務指標まとめ

    最後に財務分析の方法(就活生向け)をまとめておきます。

    • 財務情報とは「企業の経営成績」を表すもの
    • 財務指標は企業の実力値を客観的に表した指標なので、人事の言葉に惑わされずに「企業の本当の姿」を知るためには財務分析が必須
    • 財務分析をするときは「比較する」という視点が重要
      (例:同業他社と比較する、過去の水準と比較する)
    • 財務分析の結果だけを見ても意味がない。「なぜそのような結果になったのか」という背景を考えることに意味がある
      (例:なぜ住友不動産の収益性は他の不動産会社よりも高いのか?)
    • 就活における企業分析であれば、以下の5つの財務指標だけ見ておけば十分
      収益性指標:営業利益率=営業利益÷売上高
      安全性指標:ネットD/Eレシオ=純有利子負債÷自己資本
      効率性指標:総資産回転率=売上高÷総資産
      従業員情報:平均年齢、平均給与、従業員一人当たり売上高など
      セグメント情報:事業別の売上規模や収益性の比較

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